コロナになってから、スーパーマーケットには一人でしか行けなくなってしまった。
先週の土曜日。その日は、いかつい顔で60歳くらいの、ごま塩頭で中肉中背の白人男性が、入り口に警備員として仁王立ちで立っていた。スーパーに入って行く人、出てくる人を鋭い目つきで見ている。
いつもいる若くてひょろっとしたお兄さんには、ボンジュールと声をかけるミチルも、このおじさんは、オーラが怖すぎて、思わず目を逸らして黙って通り過ぎて入店してしまった。
1週間分の買い物を終えて、入ってきたのと同じ場所から出ようとすると、まだ同じおじさんが立っていた。しかし、お腹が減ったのか、バナナを食べている。え?仕事中だよね・・・?まあでも、お腹空いたんだから、バナナくらい食べてもいいか。目つきも心持ち少し優しくなった気もする。
入店時、ボンジュールとご挨拶できなかったので、少し罪悪感を感じていたミチルは、バナナを食べているおじさんを見て、ボナペティ!と声をかけてみた。
すると、あんなに怖いオーラのおじさんが、なんと少し照れ臭そうに、私に向かって、マダム、あなたにもボナペティだよ。というではないか。
ボナペティ?と言われてカートを見ると、確かに私のカートには食料品が山盛りになっている。
なるほどね。ありがとう。良い週末を!と言って、おじさんに手を振って店を出た。
なんだかこういう小さな交流がベルギーらしくていいなあと、一人温かい気分になる。
機械じゃないんだ。「人間」が働いているのだ。喉が渇いたり、お腹が減って当然である。
ちょうどその数日後、日本で一緒に働いていた元同僚がある記事を送ってくれた。
日本では、仕事中に水(アルコールじゃないですよ)を飲んでいたために、それを見た客に通報されたり、文句を言われたりすることがあるという。
そのために、あらかじめバスや電車に「業務中に水分補給をすることがあります」という貼り紙があるという。
それも、それが「善意」の通報として表現されており、私はひっくり返りそうになった。
ヨーロッパだったら、仕事を頑張ってやって喉が渇いているのに、水すら飲んじゃダメだなんて、そんな非人間的なことを言うほうが、通報されて然るべきだろう。
なんて窮屈で生きづらい国なんだ。
もっと、本質を見極めて、寛大になってほしい日本である。
written by Mythyl 23.apr.2021