聖ニコラがベルギーにやってくる

クリスマスも近づき寒い季節になると、スーパーに聖ニコラの姿を象ったチョコレートが登場します。「ニコラ? サンタじゃないの? えっ、この人だれ?」と思った方も多いはずです。

クリスマスといえば、日本ではサンタクロースですよね。サンタさんがトナカイにひかれて空を飛び、子供が寝ている夜中に煙突から入ってクリスマスツリーの下(もしくは枕元においた靴下の中)にプレゼントを置いてくれる。ママがサンタさんに事前に要望を伝えてくれるご家庭も多いことでしょう。

で、このサンタおじさんと聖ニコラって、雰囲気が似ているんですけど、一体どういったご関係なんでしょうか?

ベルギーにしばらく住んでいる人はご存知でしょうが、聖ニコラというのが元祖プレゼントおじさんで、サンタクロースは偽物・・・といって悪ければ、アメリカで商業的に発展した成れの果てであります。17世紀に新大陸に渡ったオランダ人が「シントニコラース Sint Nicolaas」もしくは「シンタクラース Sinterklaas」と発音していたものが転じて「サンタクロース」となったようです。1823年にクレモント・クラーク・ムーアの作の詩「聖ニコラスの訪れ A Visit from St. Nicholas」が発表され、ここで空飛ぶ小太りのおじいさんがクリスマス前夜に煙突から入ってくるというイメージが表現されます。その後、コカコーラのマーケティングが、サンタクロースのビジュアルを創り上げてきたことは有名な話です。

さて、我らがヨーロッパの聖ニコラは、トナカイなんかには乗りませんし、煙突から家宅侵入したりはしません。

ニコラオスは4世紀頃に小アジアのローマ帝国リュキア属州のパタラに生まれます。現在のトルコのアンタルヤ県に円形劇場などが遺跡として残っています。彼はミラ Myra という都市でキリスト教の主教となり、数々の奇跡を起こし、天寿を全うして亡くなりました。

数々の奇跡がありますが、2つご紹介しましょう。まずはプレゼントを分け与えるイメージ。ブリュージュのグルーニンゲ美術館に聖女ルチア伝の画家が描いた《聖ニコラウスの祭壇画》があります。これは小パネルがついていて、貧しい三人の娘がいる家に結婚持参金のコインを投げ入れる姿(画面左)が描かれています。日本の義賊として有名な鼠小僧を思い出させます。病気の父を抱え、売春婦になろうかという危機を救ってくれたありがたいお坊さんです。

(下:《聖ニコラウスの祭壇画》小パネル)

(下:《聖ニコラウスの祭壇画》中央パネル)

さて、もう一つは船乗りの守護聖人としての聖ニコラです。中世のイタリアの画家ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ Gentile da Fabriano の描いた絵には、船乗りを救う姿が描かれています。(すでに飛んでますね・・・)17世紀に絶頂の時期を迎えるオランダは海洋国家だったので、聖ニコラはたいへん人気があったそうです。

ここから、少々話題が脇道にそれますが、オランダとフランダースでは、他の国と異なり、シント・ニコラースにお供がつきます。黒いピート Zwarte Piet という黒人の青年です。19世紀半ばから登場することになる彼はスペインのムーア人で、派手なルネサンス風衣装に身をまとい、黒い顔に赤い口紅、耳にはイヤリングをして軽業をこなします。クッキーやキャンディーを振りまいて盛り上げる役回りです。

ゲルマン気質が発揮されたのか、黒いピートはお利口な良い子にはプレゼントを渡し悪い子は麻布に入れて船でスペインに連れ去ってしまうという厳しい物語設定が追加されてしまいます。親の心情の発露でしょうか、「あんた、悪いことばっかりやっていると黒いピートに誘拐されるわよ!」というのですから穏やかではありません。

オランダでは、「黒人に対するステレオタイプを植えつける人種差別である」と人権団体が糾弾して、イベントなどでも黒いピートは登場しないケースも増えてきました。

いや、ピートは黒人ではなくて、煙突のススが顔についただけなんだ」と言い訳をして黒人度を減らしてピートにこだわる街もあったりします。

さて、スペインのマドリッドから訪れる聖ニコラは、伝統的に船に乗ってやってきます。上陸してからは白馬に乗って移動します。(予算の都合しだいでは、バスに乗ってくることも?)

こちらはエジプトのシナイ半島、聖カタリナ修道院にあるもので13世紀に描かれた肖像画です。威厳があっていいですね。どちらかというと、痩せ気味で描かれる聖ニコラです。アメリカのサンタさんは、前述の作家ムーアが、身近にいた小太りのオランダ系移民の作業人をモデルにして創り上げたものだと言われます。