遅めのランチでふらりとブリュッセルの街に出て、渋めの地元カフェで魚スープを注文しました。
しばらく待つとシェフが料理を持って来てくれて一言。
「あなた、日本人?」
「そうですけど」
「じゃあ、これをかけてあげよう」
「何?」
「か・つ・お・ぶ・し」
よく晴れたブリュッセルの街カフェに現れたのは、白い円錐形のプラスチック容器に入れられたカツオブシでした。パラパラと魚スープの上にかけて、シェフは立ち去る。
なんてことだ。今日は白いズボンをはいて、あまり日本人らしからぬオーラを漂わせているつもりが、どういうわけか出自がバレている。謎のシェフはなかなか眼力鋭く、アジア人の見分けがつくらしい。
温かいスープの表面に浮かんだカツオブシは、熱でふんわりと魚の香りを立ち昇らせている。スープの味が濃いので、食べているうちにカツオは「ごった煮風」のポワソン・スープに溶け込んでいきました。
食事が終わって立ち去るときに、シェフが再びやってきて、黒いコック服の前をさっとはだけた。彼のTシャツには、赤い地に白文字で「Carp」と書いてある。
「これが何か分かるか?」
「カープ? 広島カープ?」
シェフは大真面目な顔で、そうだ、とうなづく。
「一昨年はクライマックスシリーズで優勝した」
「そうだっけ? そうかも」日本人の私のほうが知らない。
広島カープTシャツを着たシェフの話を聞いてみると、よく日本に旅行に行っているし、文化や食の大ファン。
このように、海外にいると「日本人」であることを意識させられることが多いです。自分が日本人でありながら日本について正直嫌なところもあるので、手放しに称賛されると妙にくすぐったいのですが、嫌われるよりはいい。ありがたいことです。
皆さん、日本でベルギー人に会ったら、フライドポテトにマヨネーズをかけて、喜ばせてあげてください。
4.may.2018 by Tyltyl