マルベーク駅の「オリーブの木」

ブリュッセルの地下鉄メトロの各駅には、それぞれ個性的なアートワークが施されて、ともすると画一的な印象になりそうな公共交通機関の環境に彩りを与えている。中心街のブルス(元証券取引所)にはシューレアリスムの巨匠ポール・デルヴォーの描いたトラムの壁画があり、オルタ駅にはアールヌーヴォーの巨匠ヴィクトール・オルタの作品の一部が前庭に設置されている。

2016年3月22日に発生したブリュッセルの空港地下鉄爆破テロで被害に遭ったマルベーク駅は、画家のブノワ・ヴァン・イネス氏の印象的な肖像画が、文字通り「駅の顔」になっていた。シンプルな黒のラインで描かれた男性の顔、女性の顔は、今となっては泣いているようにも見え、つい涙を付け加えたくなる衝動がわきあがる。

抽象的な表現で、民族や人種は明確に分からないが、なかにはスカーフを巻いた女性の顔もあり、興味深い。イスラム教徒の女性がかぶる布、ブルカ(ヘジャブ)のようにも見える。実際に無差別なテロ行為でイスラム教徒も犠牲者になった。

最近、マルベーク駅の改札内に、ファン・イネス氏の新たな作品が加わった。肖像画と同じ筆致で描かれたオリーブの木である。

オリーブは中東から地中海に抜けて広くポピュラーな食物であることは当然のことながら、歴史的にはランプの油としても使われたりと非常に有用な性質から、人間はオリーブにより深い意味合いを見出していた。

西洋では平和や勝利の象徴として扱われ、イスラムの伝統でも神の祝福した聖なる木としてコーラン登場し、モスクの建物やお祈りのマットの絵柄としても使われている。

マルベーク駅の新しい壁画には、スペインの詩人フェデリコ・ガルシーア・ロルカの詩がフランス語とオランダ語で添えられている。

Ciel bleu, champ jaune. Montagne bleue, champ jaune. Par la plaine grillée, chemine un olivier. Un olivier tout seul.

Blauwe hemel. Gele akker. Blauwe berg. Gele akker. Over de verschroeide vlakte stapt een olijfboom. Een eenzame olijfboom.

青い空、黄色の畑。青い山、黄色い畑。灼熱の平原に、オリーブの木が佇む。ひとりぼっちのオリーブの木。

 

11.aug.2016 by Tyltyl