【ミチルの事件簿】 消えた車

狐につままれたような出来事が起きた。朝起きて、会社に行くために車に乗ろうとしたら・・・。昨日停めたはずの場所に、自分の車がない。別の車が停まっている。

何度目をこすっても同じ。白い小さな日本車が、突然ドイツ製の黒い高級車になっているなんておかしい。もしかして、他の場所に停めたのを忘れたのだろうか・・・? いや、昨日の夜の事は、明確に覚えている。ここに停めたし、鍵もかけた。・・・ということは・・・?

何らかの理由でレッカー車で持って行かれたのか? だとすると、最低でも250ユーロくらいの罰金は覚悟しないといけない。違反したはずはないが、それ以外考えられない。何度も頭を振ってみたが、周りを見渡しても、自分の車らしきものは見当たらず、仕方なく会社に連絡をした後、まず、レッカー車で持って行かれていた事態を想定して、交通警察に電話を入れることにした。

しかし、電話しても私の車のナンバープレートが、レッカー移動されているリストに入っていないという。もしかしたら、まだなのかもしれないから、近くの交番に行って確かめた方が良いとアドバイスを受けた。さっそく、てくてく歩いて、自宅から一番近い交番に行く。当然だ。車がないので徒歩になる。道すがら、まさかと思いつつ自分の車を目で探したが、出てくるわけもなく。

その交番のおまわりさんは、結構親切なので気に入っているのだが、残念ながら、ここでもレッカー移動の記録はないという。そして、あなたの家の管轄の警察はここではなく、ブリュッセルの中心にある別の警察署になるから、盗難届はそちらに行って出してくださいという。

その警察署は、以前何度かお世話になったことがある(もちろん犯罪者としてではない)のだが、非常に警察官の対応が悪かった印象。しかし、仕方がない。管轄の警察署に着き、出て来たツルッぱげの警察官のおじさんに説明すると、どうやらレッカー車の件はすでに先ほどの警察から連絡が入っていて、私がこちらに来ることが知らされていたらしい。

「何時に昨日停めたんだ?」

「午後11時半くらいです」

「そうか、それはあれだな、(お酒を)飲み過ぎて酔っぱらって停めたから、覚えていないってやつだな」

「お酒は飲んでません」

「みーんな、そういうんだよなー。それで、書類を作成した後に、『あ、おまわりさん、ごめんなさい。やっぱり思い出しました。あそこではなく、違うところに停めてました』って。それってどういうことか分かる? 我々の書類作成の時間と労力がぜーんぶ無駄になったってこと。そんなのばっかりだよ。それにね、あんた。悪いけど、何そんな小さくって別に立派でも何でもない車、今時だれも盗まないよ。小型車でしょ? 冗談やめてよ。誰が盗むの? もう、そのうちどこに停めたか思い出せるよ」

「おまわりさん、そんな他の人と一緒にしないで下さい!」

「あー、分かった分かった。今にあんた、私が正しかったってことを見せてあげよう。ちょっと、待っていなさい」

あー、やっぱり変なおまわりさんに当たってしまった。この人だったら、私の言っていることは信用してもらえない。

どうしようと思っていると、若い別の警察官がやって来た。

「さあ、彼と行くんだ」

「???」

「あなたの車を探しに行くんですよ。きっとあなたのお住まいの近くにありますから」

「ないんですよ。私、探したんですから。ないんです。だから盗まれたに違いありません。」

「まあまあ。見てみましょう」

 

というわけで、その若い警官の運転するパトカーに乗って、私はまた自宅の方へ戻る事になった。あれ? あのシートベルトができなくなっているんですけど?

「ああ、いいのいいの、シートベルトはしなくていいんだよ。パトカーだから」

「はあ」

何だか本末転倒。

 

でもこの若い警察官に救われた。私のつたないフランス語を聞いて彼が、

「ところで、あなたはどこの出身?」と聞いてくる。

「日本です」

「えー! 僕は、日本がとっても大好きです。日本食、美味しいです」と、なんと、日本語で返ってくるではないか。本物の(?)日本人とお話できるのが嬉しいらしく、日本人と言ったとたんに、なんとなんと、警察官がとてもフレンドリーになったのである。

哀しいかな、私は自分の車を失くしたばかりで、彼の嬉しいテンションにあまりついて行けなかったのが残念だが、この若いほうの警察官が協力的だったのは本当に助かった。一生懸命私の車も探してくれて、これだけ探してないのは、やはり盗難だと納得してくれて、警察署に戻り書類を作成してくれた。確かにこの書類作成が結構大変で、小1時間くらいはかかったと思う。

最後にサインをした後に、この情報はヨーロッパのシェンゲン域内すべての国に行き渡るからね、と言われて、なるほど、ただの酔っぱらいのど忘れだった場合にどれだけ迷惑がかかるか考えて、貴重な警察官の時間を使っても、こんなことをしたのかと納得した。

それにしても、最近車が丸ごと盗まれるなんてことはほとんどないらしい。3年前にあったケースが一番最近だ、とその警察官は話していた。それは、大きなバンで、盗難から半年後にパリのシャルルドゴール空港の駐車場で、麻薬の密輸に使われていたのを見つけられたらしい。盗難にあったということは、私のあの愛車も何らかの犯罪に今頃使われているのだろうか。嘆かわしいことである。

 

しかし、不思議だ。警察官も首を傾げたように、なぜ、私のあのような普通車が盗まれたのか。それも、たった8時間くらいの間に、鍵がないと動かしようがないはずなのに。レッカー車のような大きな車で移動させたなら、なぜ私の車だけがなくなったのか。近所には私の車なんかより高級で新しい車がたくさん並んでいる。なぜ?

最後に警察官に、GPSで居場所を突き止めることはできないのか聞いてみると、

「あなたは、アメリカ映画を見過ぎですよ。実際は、あんな映画のようにはうまく行きません」という答えが返って来た。ふうむ・・・。

 

その後、会社に行くと、これまた予期せぬ同僚たちの反応。

「ミチルー。新しい車が欲しいからって、古い車、売っぱらったの? それとも、今頃運河に沈めてるとか。あんまり悪いことしちゃ駄目だよー」

日頃の行いが悪いせいか、誰も私の言うことを信じちゃくれない。