映画「残されし大地」 La Terre Abandonée

映画「残されし大地」La Terre Abandonéeは、日本人の妻を持つジル・ローラン氏の初監督作品。原発事故に苦しむ福島を静かなタッチで描いたドキュメンタリー映画。ローラン氏は完成間近に地下鉄テロ事件で亡くなった。(写真:カメラの後ろに立つのがローラン監督)2016年ブリュッセルの公開は好評のうちに終了。

●映画紹介

2011年の福島原子力発電所による事故のあと、帰還困難区域として指定された富岡町に独り残り続け、動物の保護活動を続けることで有名になった男性と、傍らに寄り添う寡黙な父。

人気のなくなった町の中、今もひたすら畑を耕し続ける老人とその傍らで折鶴を作る妻。

南相馬の仮設住宅に住む夫婦は、お彼岸の墓参りをしながら放射能測定器を片手に「翌年こそ」の帰還を先祖に誓う・・。

淡々と進んでいく日常生活の中で、彼らが自然体で紡ぐ言葉の中に「ある日」を境に、かつての故郷を失った人間たちの今とこれからが見えてくるーー。

5年前に福島を襲った「不運のその後」をある視点を持って描き出すことで、観る者に「土地と人」との切ろうとしても切れない強い結びつきを考えさせる。

しかし“反原発”というスタンスをベースにしながらも、それだけを声高に語るわけではなく、土地本来の持つ変わらぬ自然の美しさを切り取り、感じ取ってもらうことに、監督としての静かな抗議が込められているとも言えます。

ABANDONED LAND by Gilles Laurent - Trailer - CVB AUTEUR from CVB-VIDEP on Vimeo.

監督は日本人を妻に持つベルギー人で、本作が処女作そして遺作となるジル・ローラン。

長年、主にヨーロッパの映画界でサウンド・エンジニアとして活躍してきた彼が妻の母国である日本に移り住んだあと、自らメガホンを取ってもと選び取った題材が「福島」でした。

しかし、祖国ベルギー・ブリュッセルにて編集作業のために一時帰国し、それが最終段階に差し掛かったころ、地下鉄テロで命を落とすという思いがけない出来事が。映画はプロデューサーや同僚らの悲しみを超えた努力によってその後、完成しました。

福島、そしてテローー。

期せずしてダブルのドラマが織り込まれた本作品。衝撃的なニュース性を持ちながらも、映画そのものは人ならば誰もが持つ“五感で感じる”という、どこか肉体的な心地よさにも満ちています。

身を委ねたくなる美しい景色、耳に心地よい音、そして美味に映るもの・・それらをこよなく愛し、鋭敏な感覚を持っていた監督、ジル・ローランの感性が、直接、観客の五感にも心地よく響くことが予想されます。

まさに「命を懸けて、命の尊さを描いた」本作。

今はこの世にない、かつて存在した監督の身体に備わっていた感覚が、ひとりひとりの中にその都度、蘇る“不思議な装置”でもあるこの映画・・・それは本作の持つ本来のメッセージが伝わることと

同時に、亡き監督本人にとっても癒しとなることでしょう。

 

2015|ベルギー|72分|カラー|マルセイユ国際ドキュメンタリー映画際正式招待作品
制作:CVB Brussels (http://www.cvb-videp.be) プロデュース:シリル・ビバス
監督:ジル・ローラン 

PROFILE :
1969年ベルギー、バストーニュ生まれ。在ブリュッセル芸術学校INSAS(http://insas.be)にて録音技術を学び、サウンドエンジニアとして活躍。主にヨーロッパを舞台に多くのドキュメンタリー、フィクション映画の製作に参加。2005年、映画”The Roof”にてマルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀レコーディング賞を受賞。参加した日本公開作品には「闇のあとの光」(2012カルロス・レイガダス監督 カンヌ映画祭・監督賞受賞作品)、「チキンとプラム煮 〜あるバイオリン弾き、最後の夢」(2011 マルジャン・サトラピ監督)など。

※参加作品の一覧:インターネットムービーデーターベスよりサウンドエンジニア、Gilles Laurent分
ローラン氏の奥様のブログ